不動産売却における共有名義・相続登記の進め方【2026年版】
親から実家を相続した。売ったほうがいいとは思うけれど、名義はきょうだい3人の共有のまま。自分の一存では決められないし、そもそも何から手をつければいいのかも分からない——。相続がからむ売却は、ふつうの売却に「もう一手間」が加わります。その一手間が何なのかを知らないまま時間だけが過ぎてしまう方を、現場でたくさん見てきました。
共有名義の不動産でも、共有者全員が売主として契約すれば売却できます。自分の持分だけなら単独でも売れますが、買い手はほとんどつきません。そして相続した家の場合は、売る前に相続登記(名義変更)が必要です。相続登記は2024年4月1日から義務になり、取得を知った日から3年以内、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。
- 全体を売るには全員の同意
- 相続登記は2024年から義務
- 割れたときの選択肢がある
不動産売却で共有名義の家は売れる——結論は「全員の同意」
先に結論をお伝えします。共有名義の不動産でも、共有者全員が売主として契約すれば売却できます。 特別な許可も裁判も要りません。逆に言えば、1人でも欠けると、そのままでは全体を売ることはできません。
「自分の持分だけを売る」こともできます。民法206条は「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と定めています。共有者の持分もこの所有権と同じ性質を持つと解されており、持分は各共有者が単独で処分できるからです。ただし、他人と共有する不動産の持分だけを買いたいという方は、実際にはまず現れません。 住むことも建て替えることも自由にできないからです。実務では全員でまとめて売るのが基本です。
そして相続した家の場合、売る前に相続登記(亡くなった方から相続人への名義変更)が必要です。登記簿の名義が亡くなった方のままでは、買主へ所有権を移せません。この相続登記は2024年4月1日から法律上の義務になりました。

今日から押さえたい3つのこと
- 全体を売るなら共有者全員が売主になる — 持分だけの単独売却は可能ですが、買い手はほとんどつきません
- 相続した家は、売る前に相続登記が要る — 2024年4月1日から義務化され、期限と過料が定められています
- 意見が割れても道はある — 代償分割・換価分割、最後の手段として裁判所への請求という順番があります
査定から引き渡しまでの標準的な段取りは不動産売却の流れを6ステップで解説に、売却全体の入口は売却をお考えの方へにまとめています。この記事は、その標準フローに相続・共有名義だからこそ加わる手続きだけを扱います。
なぜ共有名義の売却には全員の同意が必要なのか
「使う」「貸す」「売る」で、必要な同意の数が違う
共有物に対してできることは、必要な同意の数で段階が分かれています。
| 行為 | 必要な同意 | 根拠 |
|---|---|---|
| 保存行為(修繕など現状を保つこと) | 各共有者が単独でできる | 民法252条5項 |
| 管理行為(建物なら3年以内の賃貸など) | 持分の価格に従い、その過半数 | 民法252条1項 |
| 変更行為(形状や効用の著しい変更) | 他の共有者の同意 | 民法251条1項 |
売却は、この表のどこにも収まりません。売買とは、その不動産の所有権を丸ごと買主へ移すことだからです。共有名義では、所有権を各共有者が持分という形で分け持っています。全体を買主へ渡すには全員がそれぞれ自分の持分を手放すしかなく、だから共有者全員が売買契約の当事者になる必要があるのです。
「持分の多い人が過半数で決められないのか」と聞かれますが、過半数で決められるのは貸す・使わせるといった管理の話までです。売る判断は持分割合の大小にかかわらず、1人でも反対すれば通りません。

相続した直後は、自動的に「共有」になっている
もうひとつ見落とされやすいのが、遺産分割をしていない段階では、その不動産はすでに相続人全員の共有になっていることです。民法898条1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。
法務省も相続登記のQ&Aで「遺産分割をしていない場合には、全ての相続人が法定相続分の割合で不動産を取得(共有)した状態となる」と説明しています。「自分は実家を継ぐ気がないから関係ない」と思っていても、話し合いが終わるまでは当事者ということです。

相続した家を売る前に——相続登記は2024年4月から義務
期限は3年。過去の相続にもさかのぼって適用される
不動産登記法76条の2第1項は、相続により所有権を取得した者は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」と定めています。義務化が始まったのは2024年(令和6年)4月1日です。
注意したいのは、この義務が過去の相続にもさかのぼって及ぶ点です。法務省のQ&Aは「令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産も、相続登記がされていないものは、義務化の対象になります」とし、その場合の期限を令和9年(2027年)3月31日までとしています。
| 相続で取得したことを知った時期 | 相続登記の期限 |
|---|---|
| 2024年4月1日以降 | 知った日から3年以内 |
| 2024年4月1日より前 | 2027年3月31日まで |
| 遺産分割で取得した場合(上記に加えて) | 遺産分割の日から3年以内 |
正当な理由がないのに怠った場合、不動産登記法164条1項により10万円以下の過料の対象になります。法務省の説明では、登記官が義務違反を把握するとまず催告書が送られ、期限内に登記がされなければ裁判所へ通知され、裁判所が判断する流れです。相続人が極めて多数で書類収集に時間を要する場合や、遺産の範囲が争われている場合などは「正当な理由」が認められうるとされています。

「相続人申告登記」だけでは、売却できません
2024年4月1日から、相続人申告登記という簡易な手続きも始まりました(不動産登記法76条の3)。自分が相続人であることを法務局に申し出れば、他の相続人を待たずに単独で期限内の義務を果たしたとみなされる制度で、遺産分割がまとまらないときの安全弁になります。ただし義務を果たしたとみなされるのは申し出た本人の分だけです。相続人全員が義務を果たすには全員がそれぞれ申し出る必要があります(複数人が連名で申し出ることもできます)。
ただし、ここが売却では決定的に重要です。法務省は「相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には相続登記をする必要がある」と明記しています。相続人申告登記は権利関係を公示するものではないため、これだけでは買主へ名義を移せません。
売るつもりがあるなら、遺産分割協議で誰が取得するかを決め、相続登記まで済ませてから売却活動に入る。これが最短の道です。協議書の作成や登記は司法書士に依頼するのが一般的です。
決済当日に共有者全員がそろえる実印・印鑑証明書などの持ち物は、不動産売却の必要書類、段階別チェックリストにまとめています。印鑑証明書は決済時に発行3か月以内のものが必要なので、遠方の共有者がいる場合は取得の時期から逆算してください。

共有者の意見が割れたときにできること
まず「分け方」を決める——換価分割と代償分割
意見が割れる原因は、多くの場合「売るか売らないか」ではなく「分け方が決まっていないこと」です。先に分け方の型を知っておくと、話が進みやすくなります。
| 分け方 | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 換価分割 | 不動産を売却し、代金を相続分に応じて分ける | 誰も住まない実家。全員が現金で受け取りたい |
| 代償分割 | 1人が不動産を取得し、他の相続人へ代償金を払う | 1人が住み続けたい。取得する人に資金がある |
換価分割を選ぶ場合、売却代金の受け取り窓口を誰にするかを先に決めておくと実務がスムーズです。契約書には全員が署名押印しますが、分配の段取りを決めずに決済日を迎えると、そこで止まります。

話し合いがまとまらないとき
遺産分割について協議が調わないときは、各相続人が家庭裁判所に分割を請求できます(民法907条2項)。また、共有物そのものの分割については、民法258条1項が「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる」と定めています。裁判所は現物を分ける方法、他の共有者の持分を取得させる方法を命じることができ、それが難しい場合は競売を命じることもあります。
ただし、いずれも時間と費用がかかります。競売になれば通常の売却より価格は低くなるのが一般的です。出口は用意されているが、最後の手段と理解しておいてください。

連絡が取れない・判断能力に不安がある共有者がいる場合
- 遺産分割が済んだ後の共有で、共有者の所在が分からない — 裁判所の裁判により、その持分を他の共有者が取得したり、第三者へ譲渡する権限を得られる制度があります(民法262条の2・262条の3)。ただしまだ遺産分割をしていない相続財産については、相続開始から10年を経過するまで利用できません
- 遺産分割がまだで、相続人と連絡が取れない — 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります(民法25条1項)
- 共有者が認知症などで判断能力を欠く — 成年後見制度の利用を検討します(民法7条)。本人に代わって親族が署名することはできません
- 共有者に未成年者がいる — 親権者と利益が相反する場合、特別代理人の選任が必要になります
これらはいずれも家庭裁判所や法務局の手続きが必要で、数か月単位の時間がかかります。該当しそうな方がいる場合は、売却を決める前に司法書士・弁護士へご相談ください。
相続した空き家なら「3,000万円特別控除」が使えることがある
相続した家を売って利益(譲渡所得)が出た場合、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例を使える可能性があります。国税庁のタックスアンサーNo.3306で案内されている制度で、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。ただし令和6年1月1日以後の譲渡で、その家屋と敷地を相続で取得した相続人が3人以上の場合は2,000万円までです。数えるのは相続人の総数ではなく、この家屋と敷地を取得した人の数です。きょうだい3人でも1人だけが取得したのであれば3,000万円のままです。
対象になる家屋の条件
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと — 分譲マンションは対象外になります
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと — いわゆる一人暮らしだった家です
亡くなる前に要介護認定を受けて老人ホーム等へ入所していた場合も、一定の要件を満たせば対象になります(国税庁コード3307で別途案内されています)。

売り方と期限の条件
家屋をそのまま売る場合は、譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものである必要があります。満たしていなければ、家屋を取り壊して敷地だけを売るという選択になります。加えて、令和6年1月1日以後の譲渡であれば、譲渡の時からその翌年2月15日までに耐震基準を満たすか取り壊しを行う形でも認められます。
期限と金額の条件は次のとおりです。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 売却期限 | 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 売却代金 | 1億円以下であること |
| 利用状況 | 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと |
| 買主 | 親子・夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと |
| 制度の適用期限 | 令和9年(2027年)12月31日までの譲渡 |
「相続の時から譲渡の時まで貸していないこと」は見落とされがちです。もったいないからと一時的に人に貸した場合はもちろん、相続人の誰かが住み始めた場合も、この特例は使えなくなります。 売却を視野に入れているなら、賃貸に出す前に確認してください。

この特例の適用を受けるには確定申告が必要で、市区町村長が交付する「被相続人居住用家屋等確認書」などの書類もそろえます。ご自身が住んでいた家を売る場合の3,000万円控除は要件が別で、不動産売却の3000万円控除、条件と落とし穴で解説しています。なお相続した不動産は、被相続人の取得日と取得費を引き継ぐのが原則です(取得費が分からないときの調べ方)。

よくある質問
法律上は売れます。持分は各共有者が単独で処分できるからです。ただし現実の買い手は持分を専門に扱う業者が中心で、価格は相場より低くなるのが一般的です。その後の共有者との関係を考えても、まず話し合い、それでも動かないときに代償分割や裁判所への請求を検討する順番をおすすめします。
正当な理由なく期限内に申請しないと、10万円以下の過料の対象になります。それ以上に実務で困るのは、放置している間に相続人が亡くなって相続人がさらに増え、話し合いの参加者が10人、20人と膨らんでいくことです。売ろうとしたとき、全員の同意を集めること自体が大仕事になります。
通常は使えません。この特例は「区分所有建物登記がされている建物でないこと」が要件のひとつで、区分所有建物登記がされている分譲マンションは対象外になるからです。ただし譲渡所得の計算そのものや他の控除の可否は別の話なので、不動産売却の税金はいくらかかる?もあわせてご確認ください。
できません。判断能力を欠く状態の方が行った契約は無効になるおそれがあり、家族であっても代理権なしに署名することはできません。成年後見制度の利用を検討することになります。選任には家庭裁判所の手続きが必要で時間がかかりますので、早めに司法書士・弁護士へご相談ください。
相談や査定を先に進めることは問題ありません。むしろ「いくらで売れそうか」が分かると話し合いが進むことがよくあります。ただし売買契約を結ぶ段階では相続登記が済んでいる必要があります。査定を取って全員で数字を共有し、並行して遺産分割と相続登記を進める——この順番が現実的です。
共有者が複数いる売却は、書類の取りまとめだけでも時間がかかります。動き出す前に、誰がどの手続きを担当するかを決めておくと、決済日にあわてずに済みます。当社でも、遠方に共有者がいるケースの段取りからご相談いただけます。
まとめ——「同意」と「登記」を先に整えれば、あとは通常の売却
- 全体を売るには共有者全員が売主になる — 過半数では決められません。持分だけの単独売却は可能ですが買い手がつきにくい選択です
- 相続した家は、相続登記を済ませてから売る — 2024年4月1日から義務化。知った日から3年以内、それ以前の相続は2027年3月31日まで
- 相続人申告登記では売却できない — 義務は果たせますが、名義を買主へ移すには相続登記が必要です
- 割れたら分け方から決める — 換価分割・代償分割を先に検討し、裁判所への請求は最後の手段です
相続がからむ売却でつまずく方に共通しているのは、話し合いの内容より「何を先にやるべきか」の順番が分からないまま止まっていることです。順番は、遺産分割の話し合い → 相続登記 → 売却活動。この3つだけ。ここさえ通れば、あとは通常の売却と変わりません。
売却全体の段取りを1冊で確認したい方は、下のチェックリストをお使いください。流れと必要書類、媒介契約の選び方に加えて、残債・相続・共有名義のケース別の考え方もまとめてあります。
この記事は制度と一般的な実務の説明です。相続登記や遺産分割協議の具体的な手続きは法務局または司法書士に、空き家の3,000万円特別控除が使えるかどうかの判定と申告は税務署または税理士に、ご自身の物件の相場や売り方は不動産会社にご確認ください。制度は改正されることがありますので、手続きの際は最新の情報をご確認ください。




