不動産売却の取得費不明を解決する3つの調べ方【2026年版】
売却の相談を進めていくと、たいてい一度は聞かれます。「この家、いくらで買われましたか」——。ところが押し入れを探しても実家の仏壇の引き出しを開けても契約書は出てこず、買ったのが30年前だったり自分が買った家ではなかったりすると、金額を知る人が誰もいない、ということも珍しくありません。
購入時の金額が分からなくても、売却そのものは止まりません。国税庁も、取得費が分からない場合には売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができる、と案内しています。ただしこの概算取得費5%は税金の計算上とても不利になりやすく、大阪市内・2,500万円で売った実家のモデルでは、実額の取得費が分かった場合との差が約279万円でした。まず3つの調べ方を試す価値があります。
- 分からなくても売却は可能
- 概算5%の損得
- 取得費を探す3つの道
取得費が分からなくても売却はできる——ただし「概算取得費5%」だと税金が増えやすい
購入時の金額が分からなくても、不動産を売ること自体は問題なくできます。「いくらで買ったか」を証明する義務は、買主にも金融機関にも法務局にもありません。取得費が必要になるのは、売った翌年の確定申告の場面だけです。
その申告も、分からないままで進みます。国税庁の案内です。
「売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。」(国税庁 タックスアンサー No.3258「取得費が分からないとき」)
これが概算取得費と呼ばれるルールです。2,500万円で売ったなら、その5%にあたる125万円を取得費として計算してよい、ということになります。
問題は、この金額が実際の購入代金よりずっと小さくなりやすいことです。取得費が小さいほど利益は大きく計算され、その分だけ税金が増えます。

取得費が分からないと、税金の計算はどうなるのか
不動産を売ったときの税金は、売却価格そのものにかかるのではなく、利益が出たときにその利益に対してだけかかります。
譲渡所得(利益)= 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用
このうち「取得費」が、買ったときの代金や購入時の諸費用です。ここが125万円になるか1,500万円になるかで、利益の額がそのまま1,375万円変わります。税率は所有期間で決まり、売った年の1月1日時点で5年を超えていれば長期譲渡所得として20.315%(所得税15.315%+住民税5%)、5年以下なら短期譲渡所得として39.63%です。
所得税には復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)を含みます。所有期間は「売った年の1月1日時点」で判定するため、2021年6月に買って2026年8月に売ると、実際は5年2か月でも短期扱いです。
まず自分がどちらのケースかを分ける——「自分で買った」か「相続・贈与で受け継いだ」か
探し方の話に入る前に、ひとつだけ切り分けてください。自分で買った物件か、相続や贈与で受け継いだ物件かで、探す先が変わります。
| 自分で買った物件 | 相続・贈与で受け継いだ物件 | |
|---|---|---|
| 取得費になるのは | 自分が買ったときの金額 | 亡くなった方(贈与した方)が買ったときの金額 |
| 探す相手 | 自分の書類・自分の取引先 | 被相続人の書類・被相続人の取引先 |
| 手がかりの残り方 | 記憶と保管場所をたどれる | 家族の誰も知らないことがある |
| 追加で使える制度 | — | 取得費加算の特例(相続税を納めた場合) |
相続の場合に「相続したときの評価額が取得費になる」と誤解される方がとても多いのですが、そうではありません。

なぜ取得費が分からなくなるのか
「大事な書類なのに、どうして無くなるのか」と思われるかもしれません。ただ、取得費が出てこないケースには共通した事情があり、ご自身の管理を責める必要はありません。
契約書は「捨てていないのに見つからない」ことが多い
売買契約書は引き渡しのときに分厚いファイルごと渡され、そのまま押し入れの奥にしまわれて、その後は開かれません。20年、30年のあいだに引っ越しで処分されたり、リフォームや建て替えで置き場所が変わって行方が分からなくなったりします。
もうひとつ多いのが、権利証(登記済証・登記識別情報)だけを大切に保管し、契約書は「もう使わない書類」として別扱いになっていたケースです。権利証は貸金庫や仏壇の引き出しにきちんと残っているのに、隣にあったはずの契約書だけが無い。裏を返せば、権利証が見つかった場所の周辺は探す価値が高いということでもあります。

相続した実家では、そもそも家族の誰も金額を知らない
相続で受け継いだ物件は、買った本人がすでに亡くなっているので記憶をたどる相手がいません。親が買ったのが自分の生まれる前で話を聞いていない、兄弟に聞いても分からない、遺品整理で古い書類として処分された——といった経緯をよくうかがいます。
大阪市内でご相談の多い分譲マンションには、数十年前に建てられた住棟が数多くあります。その頃に購入された住戸が、今まさに相続で次の世代へ渡っています。「取得費が分からない」は、大阪の中古マンション売却では珍しい事故ではなく、よくある入口だとお考えください。

取得費を調べる3つの方法
概算取得費5%へ進む前に、次の3つの順で当たってみてください。①が最も確実で、③に行くほど手がかりの精度は落ちます。
① 手元の書類を探す——権利証・確定申告の控えの近くにある
まず探すのは売買契約書です。金額が明記されているうえ、税務署に対しても最も強い資料になります。契約書が無くても、次のものに金額が載っていることがあります。
| 探すもの | どこにあるか | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 売買契約書 | 権利証と同じファイル・貸金庫・仏壇の引き出し | 購入代金そのもの |
| 領収書・代金の精算書 | 引き渡し時の書類一式 | 代金と諸費用の内訳 |
| 分譲時のパンフレット・価格表 | 押し入れ・本棚に残っていることがある | 分譲時の販売価格 |
| 確定申告の控え | 住宅ローン控除を受けた年の申告書類 | 取得価額・借入残高 |
見落とされがちなのが最後の確定申告の控えです。購入時に住宅ローン控除を受けていれば初年度に確定申告をしており、その控えには物件の取得対価が記載されています。契約書の写しを添付しているケースもあります。
契約書が見つかっても、その金額がそのまま取得費になるわけではありません。建物部分は、購入代金から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く必要があります。国税庁は非業務用建物について「建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数」で計算するとしており、構造ごとの償却率は同庁の表で確認します。契約書に土地・建物の内訳が無い場合の按分も含め、この部分は税務署または税理士にご確認ください。

② お金の記録をたどる——ローンの書類と通帳
契約書が出てこなくても、代金が動いた記録が別の場所に残っていることがあります。
- 住宅ローンの金銭消費貸借契約書・返済予定表——借入額と借入時期が分かります
- 通帳・預金の取引明細——購入時期の大きな出金が特定できれば手がかりになります。金融機関によってさかのぼれる年数が違うため、まず窓口に確認してください
- 登記事項証明書(乙区)の抵当権の債権額——法務局で誰でも取得できます(所定の手数料がかかります)。売買代金そのものは登記されませんが、当時いくら借りたかは記録されています
- 住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の書類——公庫融資で買われた物件では、融資関係の書類が家に残っていることがあります
注意していただきたいのは、借入額や抵当権の債権額は「購入代金そのもの」ではないという点です。頭金の分だけ借入額は少なく、諸費用を上乗せして借りていれば逆に多くなります。こうした資料をもとにした取得費の推計を税務署が認めるかは、資料の内容と個別の事情によって判断が分かれます。推計で申告を進める前に、必ず税務署または税理士にご相談ください。

③ 第三者に問い合わせる——分譲会社・管理組合・仲介会社
手元にも金融機関にも記録が無い場合、当時の取引に関わった相手に残っていないかを当たります。期待できる順に3つです。
まず分譲したデベロッパー。新築分譲マンションでは、分譲時の販売価格表やパンフレットが社史資料として残っていることがあります。次に管理組合・管理会社。見落とされがちですが、分譲当時の資料一式が書庫に眠っていることがあります。
最後が仲介した不動産会社です。取引の帳簿の備え付けが宅地建物取引業法で義務づけられていますが、保存期間は帳簿を閉鎖した後5年間(自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)。数十年前の取引なら保存義務はすでに切れており、会社の判断で残っていれば見つかる、という程度の期待になります。
- 分譲したデベロッパー(新築で買った物件なら最有力)
- 管理組合・管理会社(書庫に分譲当時の資料一式が眠っていることがある)
- 仲介した不動産会社(期待は低いが、無料で確認できる)
いずれも必ず出てくるものではありません。ただし問い合わせ自体に費用はかかりませんし、ひとつでも当たれば、次章のモデルのように数百万円規模で税額が変わることもあります。売却のスケジュールに余裕があるうちに動いてください。

それでも見つからない場合——概算取得費5%で計算するとどうなるか
3つとも試して見つからなかったときは、概算取得費で申告します。正規の方法で、後ろめたいものではありません。ただし税額は把握しておいてください。
概算取得費(5%)のルール
国税庁が案内しているのは次の2点です。
- 取得費が分からないときは、売った金額の5%相当額を取得費とすることができる
- 実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も、5%相当額を取得費とすることができる
2つ目は見落とされやすいところです。「昔とても安く買った」という場合は、実額より概算5%のほうが有利になることがあります。概算取得費=必ず損、ではありません。

実額と概算で税額はどれだけ変わるか——大阪市内・2,500万円で売った場合
相続した実家(大阪市内の分譲マンション)を売却するモデルで比べます。
前提: 売却価格2,500万円/譲渡費用は仲介手数料約89万円+印紙税1万円=90万円/被相続人が買ったのは相当昔で所有期間は長期(20.315%)/実額の取得費が判明した場合は1,500万円とする/自分は住んでいないため3,000万円特別控除は使わない
| 概算取得費(5%) | 実額の取得費が分かった場合 | |
|---|---|---|
| 売却価格 | 2,500万円 | 2,500万円 |
| 取得費 | 125万円 | 1,500万円 |
| 譲渡費用 | 90万円 | 90万円 |
| 譲渡所得(利益) | 2,285万円 | 910万円 |
| 税額(長期20.315%) | 約464万2,000円 | 約184万9,000円 |
差は約279万3,000円です。取得費の差1,375万円に税率20.315%を掛けた額が、そのまま税額の差になります。言い換えると、このモデルのように長期で利益が出ている場合は、取得費を1円多く証明できるごとに税額が約20銭ずつ減るということです。
このモデルは相続した実家で、自分は住んでいないという前提です。自分が住んでいた家(居住用財産)を売る場合は、一定の要件を満たせば3,000万円の特別控除が使えるため、利益が控除の範囲に収まれば概算取得費でも税額が0円になることがあります。要件には「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」「親子や夫婦など特別の関係がある人への譲渡でないこと」「前年・前々年に同じ特例を受けていないこと」などがあります。ご自身が使えるかどうかは、売却の前に税務署または税理士にご確認ください。
相続で取得費が分からないときの2つのポイント
取得費も取得時期も、亡くなった方から引き継ぐ
相続や贈与で受け継いだ不動産の取得費は、亡くなった方(贈与した方)が買ったときの購入代金や購入手数料などをもとに計算します。相続したときの評価額でも、相続税を払った額でもありません。
同時に取得の時期もそのまま引き継がれます。これは有利に働くことが多い決まりです。相続したのが去年でも、親が30年前に買っていれば所有期間は30年として扱われ、長期譲渡所得の20.315%が適用されます。亡くなった方の所有期間が5年を超えていれば、相続直後に売っても短期の39.63%にはなりません。
取得費を概算取得費5%で計算する場合、相続人が支払った登記費用などは取得費に含められません(国税庁 タックスアンサー No.3270)。実額で計算する場合との違いなので、あわせて確認してください。

相続税を払ったなら「取得費加算の特例」の期限に注意
相続で財産を取得し、相続税を納めた方がその財産を一定期間内に売った場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。取得費が増える分、税額が下がります。要件は3つです。
- 相続または遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
3つ目が期限です。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月なので、実質的には相続開始からおよそ3年10か月が期限になります。「まだ先」と思っているうちに過ぎてしまいやすいところです。
この特例は相続税を納めた方だけが使えます。基礎控除の範囲内で相続税がかからなかった場合は対象外です。また確定申告の際に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」などの提出が必要です。適用の可否と金額は、税務署または税理士にご確認ください。
よくある質問
国税庁は購入代金・建築代金・購入手数料のほか、登録免許税や登記費用、不動産取得税、印紙税(いずれも業務用資産に係るものを除く)、借主がいる物件を購入したときの立退料、土地の造成費用や測量費、所有権を確保するための訴訟費用、当初から土地の利用が目的で、建物付きの土地を買っておおむね1年以内に取り壊した場合のその建物の購入代金と取壊し費用、使用開始までの期間に対応する借入金の利子、すでに結んでいた購入契約を解除して他の物件を取得することにした場合の違約金を挙げています。設備費や改良費も含まれます。ただし概算取得費5%で計算する場合は、これらを別に足すことはできません。
たとえば土地の取得費だけ分かって建物が分からない、という状態です。実額と概算を組み合わせられるかは、取得の経緯によって判断が分かれます。一筆の土地の共有持分を相続と売買で別々の時期に取得したケースについては、持分ごとに概算と実額を使い分けてよいとした国税局の文書回答事例があります(名古屋国税局・平成24年12月11日)。ただしこの回答自体、事実関係が異なる場合や新たな事実が生じた場合には回答内容と異なる課税関係が生ずることがある、と付記しています。土地と建物の区分など別の状況にそのまま当てはめられるものではありません。一律に「こうすればよい」と言い切れる問題ではありませんので、見つかった資料を持って税務署または税理士にご相談ください。
いいえ。国税庁は「実際の取得費が売った金額の5パーセント相当額を下回る場合も、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます」と明記しています。相当昔にとても安く買った土地などは、概算のほうが有利になることがあります。損得は「売却価格・実際の取得費・使える特例」の組み合わせで決まります。
書類の探し方や、分譲会社・管理組合への問い合わせといった実務的な部分は、売却を依頼する不動産会社が一緒に動けます。当社でも、資料の当たり先を整理するところまではお手伝いしています。一方、見つかった資料をもとに取得費をいくらとして申告するかの判断は税理士・税務署の領域です。不動産会社が税額を断定することはできませんので、その線引きははっきりさせたうえでお使いください。
まとめ——概算5%へ進む前に、3つの調べ方を試す価値がある
- 取得費が分からなくても売却は止まらない。必要になるのは翌年の確定申告の場面だけ
- 分からない場合は売った金額の5%を取得費にできるが、税額は上がりやすい(モデルでは約279万円の差)
- 探す順番は①手元の書類(権利証の周辺・確定申告の控え)②お金の記録(ローン書類・通帳・抵当権の債権額)③第三者(分譲会社・管理組合・仲介会社)
- 相続した物件は、亡くなった方の取得費と取得時期をそのまま引き継ぐ。相続税を納めたなら取得費加算の特例に約3年10か月の期限がある
契約書が1枚見つかるかどうかで、手元に残る金額が大きく変わることがあります。時間はかかりますが、売り出しの準備と並行して進められる作業です。ご検討の段階でご相談いただければ、どこに当たるべきかの整理からご一緒できます。
この記事は制度の一般的な説明です。取得費をいくらとして申告できるか、どの特例が使えるかは個別の事情で変わりますので、正確な金額は税務署または税理士にご確認ください。

